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山形家庭裁判所 昭和31年(家)147号 審判

申立人 白石アヤ(仮名)

相手方 白石英三(仮名)

白石鉄治(仮名)

主文

申立人と相手方英三とを離婚する。

申立人と相手方英三との長男富雄の親権者を相手方英三と定める。

相手方英三は申立人に対し慰藉料として金十万円也を内金五万円也を昭和三十二年九月末日限り、残金五万円也を昭和三十三年三月末日限り山形家庭裁判所に寄託して支払うこと。

申立人の相手方英三に対するその余の請求並びに相手方鉄治に対する請求を棄却する。

本件調停費用は各自弁とする。

事実並びに理由

申立人は、申立人と相手方英三とを離婚する。申立人と相手方英三間の長男富雄の親権者を相手方英三と定める。相手方等は連帯して申立人に対し慰藉料等として金十八万五千円也を支払うことの調停を求め、その実情として陳述した事実の要旨は、申立人は相手方英三の求婚により昭和三十年十一月○○日婚約成り、爾来同棲のうえ、同三十一年五月○○日その届出を了し、その間に同年八月○日長男富雄を挙げたものであるところ、申立人が分娩のため西村山郡○○町○○医院に入院するまでは何事もなく円満であつたが、右医院に於て富雄を分娩した直後より相手方英三の態度が急変し、申立人の分娩した子供が自分の子供ではないと云い出して申立人を遠ざけるようになつたため、申立人は婚家に帰ることもできず、やむなく富雄を連れて退院のうえ、生家に帰り静養していたものである。

相手方英三のかかる不良な行為のため申立人の蒙つた精神的打撃が大きかつたため遂に申立人は急性胃炎をおこして医師の手当を受ける身になつたような次第であつて相手方英三は申立人の名誉を毀損するも甚だしいものである。依つて申立人は円満解決を欲し、医師と話合つたら相手方等も了解して呉れるものと思い、前述の○○医師のところに相手方側よりも来てもらつて、同医師よりいろいろ説明を聞いたが、相手方英三は私立探偵を頼み、調べて貰つたら相手方英三の子供でないと云うことがわかつたからと云つてどこまでも自分の子供でないと云い張つて申立人を婚家に寄せようとしないのみか、媒酌人を介しての懇篤なる談合にも応ぜず止むなく本調停を申立てたと云うに在る。なお、相手方鉄治を本件申立の相手方として慰藉料等の請求をしたのは相手方英三には財産も何もないが、同鉄治は実父で婚姻に対して一切を処理して居り且つ財産等があるからであると附陳した。

相手方英三の答弁の要旨は、申立人の分娩した長男富雄は自分との間の子供でないから、申立人の要求にはいずれも応ずることはできないと云うのである。

相手方鉄治の答弁の要旨は申立人と相手方英三が離婚するとすれば戸籍上同人等の長男となつている富雄が真に相手方英三の子であることがはつきりした上ならば申立人に対し慰藉料を支払うと云うのである。

よつて当裁判所は調停委員会を開き六回に亘り当事者双方に調停を試みたが相手方英三は申立人の分娩にかかる長男富雄は自己の子でないとの主張を繰返すのみでついに調停が成立するに至らない。

本調停委員会にて調査せし本件記録添付の戸籍抄本○○医師の電話要旨、家庭裁判所調査官補堀江ユリ子の調査報告書中の○○民生委員小島はるの聴取部分、英三の四番目の妻たりし小山いねの聴取部分、大垣五郎の供述、申立人白石アヤ並びに相手方英三の面接結果要旨、同調査官相田茂の調査報告書中の野原しげ、西山ヒロ子に対する面接結果、申立人及その実家の資産生治程度並に相手方の資産、家庭環境等の調査結果につき、本件関与の調停委員石沢亨、同作田薫の意見を聴き本作当事者双方のため衡平に考慮し、前記の如く一切の事情を観て職権を以て申立人と相手方英三とを離婚し、且つ長男富雄の親権者を相手方英三と定め申立慰藉料中拾万円也を相手方英三に支払を命じその余の部分及鉄治に対する慰藉料の申立は全部之を認めないこととして事件解決のため主文のとおり審判したのである。

(家事審判官 小山章)

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